在宅勤務がメンタルヘルスに影響を及ぼすリスク
■はじめに
近年、在宅勤務などテレワークを廃止し、オフィス回帰を進める企業が増えています。その背景には生産性の問題もありますが、実は「在宅勤務が従業員のメンタルヘルスに与える影響」への懸念もあると言われています。以下、在宅勤務がメンタルヘルスに与える影響とその対策について考察します。
■在宅勤務とメンタル不調
国際労働機関(ILO)と世界保健機関(WHO)が2022年に発表した共同レポートによれば、在宅勤務を常態化した労働者は、仕事と生活の境界が曖昧になることでストレスや不安、燃え尽き症候群のリスクが高まると報告されています。日本でも厚労省関係の調査によれば、テレワーカーの約3割が「仕事と私生活の切り替えが難しい」と回答しています。
■在宅勤務がメンタルヘルスに悪影響を与える要因
1. プロセスよりも結果重視の評価
在宅勤務では、業務の過程を上司が直接観察できないため、どうしても「成果物」や「納期遵守」など結果中心の評価になりがちです。その結果、進捗が遅れると「自分は怠けていると思われるのではないか」という心理的圧迫感が強まります。
2. 進捗管理の徹底不足
オフィスであれば、上司や同僚と日常的に短いやり取りをする中で進捗が共有されます。しかし在宅勤務では、報告や相談が後回しになり、気づいたときには作業が遅延していることも珍しくありません。仕事の遅れが心理的な負担を増大させます。
3. 気持ちの切り替え
自宅という同じ空間で仕事と生活を切り替えるのは容易ではありません。オフィスであれば通勤時間や環境の変化が「スイッチ」として機能しますが、自宅勤務ではその境界が曖昧になります。その結果、慢性的な疲労や睡眠障害の原因となります。
4. 家族やパートナーの不理解
在宅勤務は家族との時間を増やせる働き方ですが、その反面「常に育児・家事から解放されない」問題もあります。このイライラがパートナーとの摩擦や孤独感を強めるケースがあります。また単身世帯では、社会的交流の機会が減ることで孤立感が増すことがあります。
米国や日本の大手企業の間では、近年「オフィス回帰」の動きが目立ちます。これは、在宅勤務によるメンタル不調や生産性の低下を懸念しての動きでしょう。
■対策
在宅勤務者のメンタルヘルス対策として、例えば以下のものが検討できます。
1. 細やかなオンライン雑談の導入
日常的な雑談は孤独感を軽減し、ストレス緩和につながる効果が期待できます。企業は意図的にオンライン雑談や他愛無いチャットの時間を設けるなど、形式的でない交流を促すことが効果的です。
2. 自宅近くのシェアオフィスの活用
「完全な在宅」か「完全な出社」の二択ではなく、自宅近くのシェアオフィスやサテライトオフィスを利用することで、移動の負担を抑えつつ環境を切り替えることができます。それらの施設の利用料補助なども検討できるでしょう。
3. 進捗確認と心理的ケア
「やり方がわからない」「相談しにくい」などの不安を抱え込ませないことがメンタルケアに直結します。
就業時間中に、時々でいいので「大丈夫ですか?問題ないですか?」などとメッセージを送るなどの心理的ケアをまめにすることも効果的でしょう。
■2025年10月1日施行の育児・介護休業法改正ポイント
紹介制度は中の人による信頼が前提です。つまり、今働いている社員が「自社はブラック企業でないため、安心して紹介できる」と思えることが大切です。
そのためにも、以下のような「ホワイト企業化」の取り組みを今一度点検しましょう。
1.柔軟な働き方を実現するための措置の義務化
3歳以上で小学校就学前の子を養育する労働者に対して、下記の5つの措置から2つ以上を導入することが義務化されます。
①始業・終業時刻の変更(時差出勤)やフレックスタイム制 ④養育両立支援休暇の付与(年間10日以上、原則時間単位で取得可能) |
なお制度設計には、過半数代表者からの意見聴取が必要です。自社で要件を満たす制度を既に導入済みであれば、それを運用継続する方法も可能です。現実的には、①時差出勤や⑤短時間勤務制度などは3歳までに限らず労働者の求めに応じて実施しているケースも多いでしょう。それらを踏まえながら自社の状況に適した制度を選択し、制度化を進めてください。
2. 周知と制度利用の意向確認
3歳未満の子を養育する労働者に対して、柔軟な働き方を実現するための措置として1で選択した制度(対象措置)に関する以下の事項の周知と制度利用の意向の確認を、個別に行わなければなりません。
周知時期 |
労働者の子が3歳の誕生日の1か月前までの1年間 |
周知事項 |
①事業主が1で選択した対象措置(2つ以上)の内容 |
個別周知・意向確認の方法 |
①面談 |
なお当然ながら、利用を控えさせるような個別周知と意向確認は認められません。
3.仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮
労働者が本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た時と、労働者の子が3歳になるまでの適切な時期に、子や各家庭の事情に応じた仕事と育児の両立に関する以下の事項について、労働者の意向を個別に聴取しなければなりません。
意向聴取の時期 |
①労働者が本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出たとき |
聴取内容 |
①勤務時間帯(始業および終業の時刻) |
意向聴取の方法 |
上表「個別周知・意向確認の方法」と同様に面談、書面、メールなど |
つまり今回は、柔軟な制度の周知や意向確認など、出産育児への具体的ケアが義務化された点がポイントです。