SNSでの求人募集の際に気をつけること
■募集情報提供時の注意点
職業安定法では、SNS広告等により、労働者の募集に関する情報等(以下、「募集情報」といいます)を提供するときは、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならないとされています。 昨今、インターネット等でいわゆる「闇バイト」と呼ばれる犯罪実行者の募集が行われる事案が見られ、その中には、通常の募集情報と誤解を生じさせるような広告等も見受けられます。
厚生労働省の資料によると、前述した誤解が生じないよう、募集情報を提供する際には①会社名②住所③連絡先④業務内容⑤就業場所⑥賃金(以後「6情報」という)を記載することが必要とされました。
■連絡先の設定
企業の連絡先については、信用度を高めるためSNSのダイレクトメール以外に、「会社代表電話番号、 メールアドレスまたは、自社ウェブサイト上に備え付けられた専用の問い合せフォームへのリンク」のいずれかを記載する必要があるとされています。
■自社サイトのリンクだけでよいか
SNS広告を利用して求人をする場合、広告原稿に自社求人サイト等のリンクを掲載するのみでは足りないとされています。誤解を招く可能性があるため、募集情報を提供する広告等自体に6情報を記載しましょう。
■賃金に関する表記
業務内容、就業場所及び賃金については、誤解を与えない記載をする必要があります。 例えば賃金について、「応相談」だけでなく具体的金額を記載しましょう。ただし、「時給1500円~」などと金額を例示する形式については直ちに職業安定法違反とはならないと考えられます。
■差別や偏見のない表現の使用
SNSで求人情報を発信する際、差別的な表現が含まれていないか注意しましょう。男女雇用機会均等法や労働基準法により、性別、年齢、国籍、信条、障害の有無などを理由とした差別的な表現は禁止されています。
例えば、「若い人歓迎」「男性のみ応募可」などの文言は、法的に問題視される可能性があります。これらに違反すると、求人者の社会的信用が損なわれるだけでなく、行政指導や罰則の対象になることもあります。
■著作権や肖像権への配慮
SNSで求人広告を掲載する際には、使用する画像や動画の著作権や肖像権にも注意が必要です。画像やイラスト、動画が他者の著作権を侵害していないか注意しましょう。また、自社のスタッフの写真や動画を使用する場合、肖像権上の問題が生じる可能性があるため、事前に個別の許可を得ましょう。
■SNSの規約違反と炎上リスク
求人に使用しているSNSの利用規約にも注意が必要です。規約に違反する方法で広告を掲載した場合、アカウントの停止や法的措置を受ける可能性があります。
また、SNS求人はその特性上炎上した際に拡散しやすい点も気をつけましょう。過激な表現になっていないか、客観的にフィードバックをもらうとよいでしょう。
カスハラ対策の義務化に向けた中小企業の対策方法
■はじめに
2022年からパワハラ防止法が施行され、ハラスメント対策が企業に義務化されましたが、顧客からのハラスメント、いわゆるカスハラについても近年問題が深刻化し、注目を集めています。2025年度以降カスハラについて従業員保護策を企業に義務付ける法整備が検討されています。ここでは、中小企業においてカスハラ対策を行う際のポイントを解説します。
■定義と例示
カスハラ対策をする上で、まずは「カスハラに該当する言動の定義」を定めることが重要です。厚生労働省が発表した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」によると、カスハラは次のように定義されています。
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの |
この定義を参考にすると、判断の基準は①クレーム内容の妥当性②やり方の相当性③働く環境への損害をもとに判断するものと考えられます。
この3つの判断基準について、次の表のようにそれぞれ「該当するもの・しないもの」を例示しておくと、実際の現場で役に立つでしょう。
■カスハラ判断基準表の例(飲食店)
【クレーム内容の妥当性】
妥当性あり | 妥当性なし |
・虫やゴミなどが食品に混入していた ・要求内容がクレームと釣り合っている |
・オペレーション上の理由で提供順が前後した ・顧客が希望する決済方法の取り扱いがなかった |
【やり方の相当性】
妥当性あり | 妥当性なし |
・ホームページに身元を明かしてメールで苦情 ・冷静に落ち着いた口調で話す |
・大声で怒鳴った ・ネチネチと文句を10分以上続けた ・SNSに匿名で誹謗中傷 |
【働く環境への損害】
損害程度が小さい | 損害程度が大きい |
・カスハラと因果関係の小さい理由でスタッフが退職した |
・威圧に恐怖を感じた ・SNSに晒されて名誉が傷つけられた |
自社で起こりうるクレームの種類ごとに具体的な対応マニュアル(セリフ例、相談先等)を作成するのも良いでしょう。
■従業員を理不尽な要求から守る
これからの時代の基本姿勢として、企業は従業員を顧客の理不尽な要求から守るという心構えを持ちましょう。理不尽な要求から守るために、以下の順序で対応をしていくとよいでしょう。
① 危険回避
暴力や暴言、個人攻撃、プライバシー侵害があった場合、理由に関わらず従業員を危険から隔離することを優先しましょう。
② 冷静なヒアリング等による事実確認
相手が感情的になっていたとしても冷静な対応で事実確認に徹しましょう。顧客からの要求が理不尽であるか否か、こちらの対応の問題点は何かなどを客観的に評価できるまで、ヒアリングや防犯カメラの確認などを徹底しましょう。