精神疾患による休職・復職の流れと注意点
■精神疾患による休職・復職の流れと注意点
1. 休職申し出時
社員が休職を申し出る際には、休職申出書、並びに医師の診断書などの提出を求めましょう。提出された診断書を確認した上で、原則として就業規則等で定める休職期間の範囲内で医師が指定した療養期間に合わせて休職命令書を交付してください。
就業規則の定め方にもよりますが、一般に休職は会社が決定し、仕事を一定期間休んで治療に専念するよう業務命令する制度とされています。会社は医師の診断書を判断材料として休職の必要性を検討し、社員が健全に仕事ができる状態に回復するための療養期間として休職命令を出します。休職命令書には以下の事項等を記載しましょう。
- 就業規則等の根拠
- 休職期間
- 復職の際の手続き方法
- 復職の可否は会社が判断すること
- 休職期間の延長や終了に関すること
2. 休職期間中
休職期間中は、原則として「治療に専念するよう会社から命令されている期間」という位置付けになります。プライバシーに過度な干渉をすることは控えるべきですが、医師の診断等を考慮しつつ、場合によっては療養期間として不適当な行動は慎むよう伝えても良いでしょう。
3. 休職期間の延長
休職期間の延長を申し出る場合は、休職命令書で定めた休職期間が終わる前に新たな期間の休職申出書、医師の診断書の提出を求めましょう。
休職期間の限度を超える休職の申し出について会社は拒否できます。就業規則の該当条文をもとに説明し、限度の期日までの休職命令としてよいでしょう。ただし、過去に当該限度となる期日を超えて休職させることが常態化していた場合は注意が必要です。なぜなら「他の人は延長されたのに自分だけ延長されないのは不当だ」などと主張される可能性があるからです。
4. 復職
休職の決定と同様、復職についても原則として決定権は会社にあります。休職者から復職願と診断書の提出を求め、復職の可否を検討しましょう。会社は労働者の安全や健康に配慮する義務があります(=安全配慮義務という)ので、復職判断は「復職させて安全な状態まで回復しているか?」という基準で検討します。
主治医の作成した診断書は原則として尊重すべきですが、それだけで判断が難しい場合には、必要に応じて会社が指定した別の医師への受診を命じる可能性があることをあらかじめルール化しておきましょう。
5. 自然退職
休職期間が経過しても復職できない場合は、自然退職として取り扱うことが通常です。自然退職とは、社員が私傷病により休職期間を経ても本来提供すべき役務を提供できない状態から回復しなかったことによる「会社の責任ではない退職」であるという意味で用いられる言葉です。精神疾患による休職・復職・退職はトラブルになりやすいため、あらかじめ当事務所までご相談ください。
■公益通報者保護法の概要について
公益通報者保護法が生まれた経緯
2000年頃、食品偽装や自動車会社のリコール隠しなどの企業不祥事が内部告発をきっかけとして明るみになりました。一方で内部告発した社員が解雇や降格など不利益な取り扱いが問題となりました。
こういった経緯から、企業等不祥事による国民への被害拡大を防止するため(=公益のため)に通報する行為は正当な行為であり、企業等による解雇等の不利益な取扱いから保護されるべきものとされ、「公益通報者保護法」が制定されました。
保護の対象となる通報者とは
この法律で保護されるのは、企業の法律違反行為や命令等を通報する労働者・1年以内の退職者・役員等です。労働者には公務員も含まれるため、今回の兵庫県のケースで問題とされました。
通報対象となる法違反
通報の対象となるのは、「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律」として公益通報者保護法や政令で定められた以下のような法律に違反する犯罪行為若しくは過料対象行為、又は最終的に刑罰もしくは過料につながる行為です。
食品衛生法/食品表示法/金融商品取引法/不正競争防止法/個人情報保護に関する法律/労働基準法/著作権法 他 |
通報先と保護の要件
通報先としては①社内②行政機関③報道機関や消費者団体などの3つが定められています。 また公益通報者保護法に基づく保護を受けるための要件は、通報先によって異なります。
通報先 | 主な要件 |
①社内 | 通知対象となる事実が生じ、または生じようとしていると思料すること |
②行政機関 | 通知対象となる事実が生じ、または生じようとしていると信じるに足りる相当の理由があること/通報者の氏名住所などを示して通報すること |
③報道機関等 | 通知対象となる事実が生じ、または生じようとしていると信じるに足りる相当の理由があること/社内や行政機関に通報すれば解雇など不利益取り扱いを受けると予想される相当の理由があること/社内に通報すれば隠蔽される恐れがあると予想される相当の理由があること等 |
保護の内容
労働者・役員が保護要件を満たして公益通報をした場合、それを理由とする解雇や解任は無効となります。減給やその他不当な取り扱いもできません。また、公益通報によって損害を受けた場合も、会社は公益通報者に損害賠償請求はできません。
2022年の法改正
2022年6月1日から、大企業では内部通報に対する相談体制をとることが義務化されました。300人以下の中小企業は努力義務となっています。