「その時間は労働時間なのか?」を考える
1.早出残業
始業時刻前に出社している場合、その時間の労働時間性判断は、「掃除や準備行為をおこなっている事実があるか」「会社が早出を禁止している(あるいは許可制としている)具体的事実があるか」「早出をしなければならないほどの業務量だったか」「早出をしないことにより人事評価でマイナスになるなどの不利益があるか」などを元に判断されます。
【会社の対策】
朝礼や掃除などは労働時間と判断される可能性が高いため、始業後に行うか、残業代を支払う方が良いでしょう。自発的な早出についても許可制とし、メールなど記録が残る方法で許可制度を運用しましょう。
2.持ち帰り残業
職場で終わらなかった仕事を家に持ち帰って作業した場合の労働時間性ですが、原則として労働時間と認定されにくい傾向にあります。これは、私生活空間での仕事は職場と比べて拘束度合いが低いためです。ただし、持ち帰り残業を会社が容認し、常態化している場合や、期限までに仕事が完了しないと人事評価で不利益を被るなどの場合は労働時間と見なされる恐れがあります。
【会社の対策】
持ち帰り残業は原則として禁止し、ワークシェアリングなどで業務が特定の労働者に偏らないようにしましょう。
3.サボっている時間
労働時間の中に度重なるタバコ休憩や私用のスマホ操作などの「サボっている時間」がある場合ですが、原則としてタイムカード記録による始業・終業の時間内は労働時間となる可能性が高く、労働時間性を否定するためには会社側が「対象労働者が指揮命令下にないという余程の証拠」を示さなければなりません。例えサボっているように見えていても、会社からの業務指示に直ちに反応する必要性がある状況にある限り、指揮命令下にある、つまり労働時間であると判断されてしまいます。逆にいうと、外部の情報をシャットアウトして連絡を取れなくしている状況下では労働時間制を否定した例があります。
【会社の対策】
労働時間性を争うよりも、都度注意する、具体的な業務指示をするなどの方法でサボりを防止しましょう。
4.テレワーク
テレワークについては①始業・終業時刻を指定して、出社した場合同様に労働時間管理をするか、②事業場外みなし労働時間制により労働時間を規定するかのどちらかですが、①はテレワークのメリットである労働時間の自由裁量を損なうため②を選ぶ場合が多いでしょう。事業場外みなし労働時間制による場合、「業務量がみなし労働時間に見合ったものか」「具体的な業務指示に即座に反応しなければならない状況であるか」などが判断基準になります。
【会社の対策】
上司から逐一指示を受けなくても一人で業務を進めることができる人だけをテレワーク対象としましょう。また、みなし労働時間に見合った業務量であるかを適宜確認しましょう。
一般健康診断の実施方法について
健康診断の種類
労働安全衛生法により、会社は労働者に対して健康診断を実施しなければなりません。実施義務のある健康診断は主に以下の通りです。
一部の有害業務を除いて実施される①〜④他を「一般健康診断」と言い、検査項目が指定されています。
対象者
一般健康診断の対象者は「常時使用する労働者」であり、その基準は以下の2つになります。
①期間の定めのない契約により使用される者であること。なお、期間の定めのある契約により使用される者の場合は、1年以上(深夜業など特定業務の場合は6ヶ月以上)使用されることが予定されている者、及び更新により1年以上(同6ヶ月以上)使用されている者
②その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分3以上であること。
一般健康診断項目
一般健康診断においては、次の項目を実施しなければなりません。
① 既往歴及び業務歴の調査
② 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
③ 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
④ 胸部エックス線検査及び喀痰検査(いわゆるレントゲン検査)
⑤ 血圧の測定
⑥ 貧血検査(血色素量、赤血球数)
⑦ 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
⑧ 血中脂質検査(LDL・HDLコレステロール、TG)
⓽ 血糖検査
⑩ 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
⑪ 心電図検査
注1:④について、雇入れ時健康診断においては、胸部エックス線検査のみとなっている。
注2: ⑥〜⑨はいわゆる血液検査。
代替措置など
雇入時の一般健康診断については、「入社日前3ヶ月以内」に入社予定の者が受診した健康診断結果を提出させることで代替することができます。ただし、雇入時健診は本来「会社に」実施義務があるため、何らか会社の費用負担を検討した方がよいでしょう。
また、定期健康診断は、市区町村など自治体で実施される健康診断等を本人が受診したもので代替することが可能です。ただし、一般健康診断の費用は会社が負担すべきですので、この健診費用は健診手当てなどの名目で支給した方が良いでしょう。
なお、協会けんぽまたは健康保険組合において健診費用の補助制度があります。各保険者に問い合わせて補助を活用しながら健康診断を実施していきましょう。