採用時の防衛的賃上げと既存社員給与のバランスの取り方
防衛的賃上げの弊害
例えば、表Aのような賃金テーブルを用いている会社において、1等級の新規社員募集の月給を3万円アップした場合、他の等級の給与も同額アップさせない限り、表Bのように「新人と既存社員の給与が逆転する」現象が生じます。
ベースアップができない場合の対策
この場合、全員の給与を一律に3万円上昇させること(いわゆるベースアップ)ができれば既存社員との給与逆転は起きませんが、そうなると全体の人件費が一気に上昇することになります。この人件費アップが難しい会社は、例えば上のグラフのように「最初の給与を高くするが、その後数年は昇給しない」給与体系に変更する方法が考えられます。この対応策の問題点は「昇給しない期間が長いこと」で、給与が据え置かれる期間のモチベーション低下を防ぐために対策をしなければならないでしょう。
業績に連動した給与で差をつける
この場合、例えば「2年目以降は業績連動の賞与や歩合給が支給されるようにする」などの対策が考えられます。個人業績が数値化しにくい業種の場合は、熟練度に応じて賞与に乗じる係数を変化させるなどして差をつけていくなどが考えられます。
高すぎるベテランの給与を見直す
前職での給与水準に合わせて高すぎる給与を設定してしまった社員や、明らかに現在の仕事ぶりに見合っていない高給を支給している社員の給与を引き下げることも検討の余地があるでしょう。当然給与ダウンは大きな反発が起きる可能性が高いため、客観的な数値を持ってその理由を説明し同意を得なければならないほか、「どんな成果を出せば給与が下がらないか」を示し、一定期間の猶予を与えるなどの配慮も検討しましょう。
勤務時間を見直す
週40時間労働を週35時間労働に削減するなど、社員と合意の上で所定労働時間を少なくすることで実質的な賃金をアップさせるという選択肢も、多様な働き方が求められる昨今では検討できるかもしれません。
定額残業代制度の有効性についての今
定額残業代制度とは
定額残業代制度とは一般に、一定額を定めて割増賃金、いわゆる残業代を毎月支給する制度で、実残業代がその額を上回った場合は差額支給をする一方で、実残業代がその額よりも少ない場合でも差額を控除しないというルールで運用されます。所定(法定)労働時間をバケツで例えるならば、定額残業手当はバケツの下に敷くタライのようなもので、バケツからあふれた水=実労働時間を一定量受けるためのものと考えるとわかりやすいでしょう。
明確区分性
定額残業代制度の有効性を判断するためには、まず「明確区分性」が重要であるとされています。この明確区分性とは、通常の労働時間に対する賃金と、残業代としての賃金が明確に区分されていることを指しています。例えば次のような基本給に残業代が含まれているという主張は明確区分性の点から問題があるといえます。
<NG例> 基本給30万円(月間30時間分の残業代を含む) |
見込み残業時間の上限
定額残業代に関する裁判などでは、見込み残業時間数が多いか少ないかだけで有効性を判断されるわけではありません。しかし、長時間の時間外労働を恒常的に労働者に行わせることを予定していたと認められる場合などは、その定額残業制度自体が公序良俗に反して無効であると判断される可能性が高くなります。
法律上の年間の残業上限が原則360時間(1年単位変形労働時間制を採用している場合320時間)であることを考えると、見込み残業時間は当該上限時間÷12の「26〜30時間程度」とした方が無難かもしれません。
見込み残業時間の内訳明示の有無
定額残業代が何時間分の残業に当たるかを労働契約書などで明示しているか、あるいはその中に深夜割増賃金や法定休日割増賃金がどれだけ含まれているかを明確にすべき、という主張もあります。しかし、詳細な内訳や見込み時間の明示の有無よりも「定額残業代制度が実態に即しているか」により気を配るべきでしょう。